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産後クライシスブログ第5話

【産後クライシスブログ第5話】

ついに、夫の親会社への出向が決まった。

栄転のはずだった。

いずれ、夫は出世と引き換えに家族を失うことになる。

夫の出世は誰のおかげ

夫は親会社へ転籍したがっていた。

今まで勤めていた会社を退職し、親会社へ入社。

でもそれには、いくつもある子会社のいち社員である夫にとって、また親会社にとっても前例のないことだった。

夫は計算高く、そとづらは非常に良好のため(しかも奇跡的に穏やかな雰囲気に見える)、運よく親会社の社長の目にも止まっていた。

夫は、うまく立ち回り(おかげで家庭は犠牲になったけど)その甲斐あって、出向が決まった。

今まで片道2時間近くかかっていた通勤は20分になり、名刺も新しくなり、新しいネームプレートを首から下げ、毎日親会社へ出社するようになった。

でもそれは、「転籍」ではなかったのだ。

夫はまだ子会社の社員のままだった。

夫は悔しがり、次の転籍できる機会に向けて闘志を燃やしていた。

義実家に報告に行った際に、義両親はひたすら息子のことを褒めるばかりで、1年半以上夫を支えてきたわたしには、何1つ労いの言葉をかけてくれなかった。

わたしは、「この人が異例の出世ができたのはわたしのおかげ。褒められると頑張る夫をいつも褒め、フォローした。本当は一緒に子どもの話をしたかったのに、いつも仕事の話しかしない夫の話を黙って聞いてきた。家庭も子育ても、夫は不在だった。」と、笑顔を作りながら腹の底で思った。

いつも、夫の「仕事だから。」という一言は、わたしに有無を言わせないための冷たい言葉だった。

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病む夫

新しい職場に闘志を燃やしていた夫、一瞬で燃え尽きた。

仕事が始まった初日から、夫の様子はおかしかった。

目は虚ろで、何も話さない、問いかけにも応じない。

完全に鬱状態だった。

「冗談じゃない。」

と、わたしは内心怒りに燃えた。

今まで散々、夫の自信に満ちた出世話にも付き合ってきたが、何よりも、子どもが産まれて約5ヶ月の間、「仕事」を理由に夫は育児にも家庭にも不在だったのだ。

その不在は、物理的にいないことだけではなく、わたしの心にも不在だった。

精神的な夫の不在は、孤独だった。

家庭やわたしのこと、子どものことに見向きもしなかったのだ。

その夫が、「何も楽しくない。生きていて楽しくない。」と言う。

「子どもももう5ヶ月になるし、そろそろ3人で出かけたりしようよ。」と誘うと、「そんな気になれない。寝ていたい。」と言い、家に引きこもっていた。

高卒の夫は、有名4大卒のエリートの多い同僚や、彼らの仕事ぶりや職場の雰囲気を目の当たりにして、自信を喪失していた。

もともと夫は結婚前は出世欲もなく、郊外の田舎で、10数人程度の若い社員ばかりの小規模な会社でのんびり仕事をする方が向いていたのだ。

新しい職場では、学歴もさながら、夫よりもひと回りも若い新進気鋭の社員達がうじゃうじゃいた。

仕事はできるし気は利くし、ゴルフは上手いといったところか。

夫は、今まで以上にわたしや子ども、家庭に見向きをしなくなった。

口も聞かず、休日は家からも出ず、育児もせず、「何も楽しくない。」とつぶやきながら仕事に通った。

ある日、今にも喧嘩が勃発しそうな会話の中で「毎日何が楽しいの?俺は何も楽しくない。」と言った夫に、「楽しくはないけど、毎日子どもの成長を感じられるのは嬉しいよ。やりがいを感じる。」と答えた。

信じられないことに、夫はこう言った。

「へぇ!すごいねそれ。全然そんな風に思えない。子どもが大きくなったら、会話もできて色んなところに出かけられるから、あと5〜6年の我慢と思って、今はただひたすら耐えてる。」

この男が、前妻との間の子どもと縁を切り、離婚してから2年半が経つのに一度も子どもと面会せず、今後も面会する意思がないことがよくわかった。(相手も特に面会を望んでいない。)

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夫の同僚女性に抱く劣等感

そんな日が1ヶ月以上続き、それでも夫は少しづつ新しい職場に慣れていった。

相変わらず「何も楽しくない。」は口癖だったが。

数少ないわたしとの会話の中で、夫の口から出るのは仕事の愚痴か、女性社員の話だった。

親会社には、コールセンターや事務、受付、営業など若い女性社員が多く在籍していた。

制服はないので、皆、華やかな装いだと言う。

地元のお嬢様なども多いらしく、夫はよく「あの子は街中の◯◯ってマンションに住んでいて、部屋を所有している父親はどこかの企業の社長らしい。」とか、「あの子は来年にプロ野球選手と◯◯で結婚式を挙げる。来てくださいって言われた。」とか、「みんな育ちが良くてお嬢が多い。」など・・。

わざわざ、何人もの女性社員の話をわたしに話して聞かせた。

今思えばどれも大した話ではない(笑)

ただ、気に障ったのだ。

家ではいつも鬱屈し、「つまらない。」と言って家庭に見向きもしない夫。

今まで散々サポートしてきたのに、いざ出世すると仕事では思うように本領発揮できず、成果も出ず、それはまだいいとして、自暴自棄になり「どうでもいい。」と言い出す夫。

男性社員の名前は、愚痴にしか出てこない。

子どもやわたしのことを「最近どう?」と気遣うことはない。

そんなわたしとの数少ない会話で、わざわざ、女性社員の話を聞かせること。

産後、わたしは女としての自信はゼロどころかマイナスになっていた。

子どもは生後5ヶ月で夜間授乳も夜泣きもあり、昼間はつきっきり。

いつもすっぴん、眼鏡、ヨレヨレの家着、戻らない産後太り、美容院に行けず根元の白髪が伸びたボサボサの髪、邪魔だからと適当にピンで留めた前髪・・

おまけに、外見を美しくしたいという意識よりも、1日でいいから朝まで1度も起きずに寝たいとか、1人でゆっくりランチしたい、と切に願っていた。

毎日育児と生きることに必死で、外見が悪いのは自覚しているけど、「それどころじゃねぇ。」と、どうにかする気力も体力も残っていなかった。

優先順位は、常に子どもが不動の1位だった。

夫から愛されたい

家庭や、まだ乳飲み子の子どもに見向きもしない夫に対し、わたしは不満を募らせていた。

夫が自分の殻に閉じこもるようになり(口をきかない)、孤独感は一層増した。

「この人で大丈夫なんだろうか?」

という思いが、湧き起こり始めていた。

そんな夫でも、わたしは夫に愛されたいと思っていた。

家庭やわたしのこと、子どものことをもっと見てほしい、と切実に願った。

願いは虚しく、夫は変わらなかった。

ある日、飲み会で深夜3時過ぎに帰宅した夫は、朝になって、授乳している最中のわたしに3次会で使ったBARの話を嬉しそうに始めた。

それは、上司に「作戦会議するぞ!」と言われて2次会を抜け出し、他の女性社員2名と合流し、そのBARへ行き、そのBARがすごく良かった、という話だ(笑)

ちなみにその女性社員達は違う部署で、作戦会議でもなんでもなかったそうだ。

わたしは、夜間授乳の合間の細切れ睡眠で、タクシーで帰宅した夫の気配で目も覚めて、睡眠不足で迎えた朝だった。

しかも酒飲みのわたしは、そんな良い感じのBARくらい、大学生の頃に友人と行ったことがあった(高くて1杯しか飲めなかった。)。

それで、そのBARが赤い薄暗い照明の中、個室でクッションにもたれて床に座る形式のカップルで行くような場所だとも知っていた。

授乳をしながら、嬉々として話をする夫に対し、煮えたぎるほどの怒りを感じた。

どうしてそんな話をわたしにするのか、理解し難かった。

しかも、飲み会代をせびってきた。

「なんでそんな話するの?!仕事ならしょうがないけど、若い女性とあんなBARに飲み行って、楽しかったってわたしによく言えるね。自分で払えば。」と怒鳴ると、

夫は「じゃあもう言わない。これからは女性と行っても、飲み会とだけ言ってお金請求するわ。」と、憤然として言った。

「仕事だろ?」とも。

夫は仕事を正義のように掲げる、いつも。

「せっかくの休日を、お前のせいで1日台無しにした。そんなことを言って俺を怒らすのと、言うのを我慢してお互いに1日気持ちよく過ごすのと、どちらが大事かもわからないのか?」

と、意味のわからない言葉を吐き捨てた。

わたしが言うのを我慢しても、気持ちよく過ごせるのは夫だけなのに。

私たちは、どうしたら喧嘩をせずに一緒に居られるのか?すらもわからないほどに、顔を見合わせれば溜まった不満が爆発し、いつも口論をしていた。

それでも本当に困ったことに、わたしはまだ夫に愛されたくて、こっちの方を見てほしい、もっと大切にしてほしい、という欲求は強くなる一方だった。

おかげで、現実との差にいつも苦しんだ。

夫に拒否されたハグ

決定的だったのは、ハグを拒否されたことだ。

職場の近い夫は、たまに自宅に少しだけ立ち寄り、また職場に行くということが度々あった。

その日は昼食を食べに帰り、割と時間に余裕があったのか夫はキッチンでゆっくりしていた。

わたしはまだ昼食も取れず、子どもの世話をリビングでしていた。

夫は自宅にいるのにも関わらず、食事を終えてもスマホをいじり、子どもの顔を見に来ようともしない。

わたしは日頃の不満もあり、夫に「ちょっとは子どものことも気にかければ?」と言った。

すると夫は、「悪い、もう仕事に戻らないと。」と言って見向きもせず、サッサッと家を出ようとした。

わたしは感情を抑えられず、「私たちのこと、本当に大事に思ってんの?!どうでもいいんでしょ!!わたしはこんなに・・毎日辛いのに・・・!!」と叫んだ。

「わたしのこともう好きじゃないの?ハグしてよ!!」と。

形だけでいいから夫の気持ちを確かめたかったわたしは、泣きそうになりながら言った。

夫は、呆れた顔をして黙って突っ立っていた。

「無理。」

「好きかどうかわからないよ。いつも喧嘩ばっかりだし。」

と大したことなさそうに言って、そのまま仕事へ行った。

不穏な空気を察し、泣き出した子どもを腕の中に抱きながら、わたしは死にたい気持ちになった。

続きは以下よりどうぞ(全9話・未完)

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